Interview Column

川柳との出会い

私が川柳を始めたのは、ラジオ番組の川柳コーナーに投句したことがきっかけでした。大学卒業後すぐに結婚し家事と育児に追われる日々を過ごしていた専業主婦の私に「家に閉じこもっているのはよくない」と知人が投句を勧めてくれたんです。結果は、初投句で初採用。大人になって人に褒められることってなかなかありませんよね。特に私は専業主婦でしたから、なおさらのことです。だから自分の作品と名前がラジオ番組で紹介された時はうれしい気持ちでいっぱいになりました。あの時の快感は今でも忘れられません。

専業主婦でほとんどの時間を家で過ごしていた私にとって、家の中で気軽に始められ、ゴルフや習字のように特別な道具がなくてもできる川柳はとても魅力的に思えました。また、「色々な人になれること」も川柳の大きな魅力だと思います。例えば、私は大学卒業後すぐに結婚したため働いた経験がなかったのですが、そんな私でも川柳という世界の中では、バリバリと仕事とこなしながら禁断の恋に生きるキャリアウーマンの気持ちになって句を詠むことだってできるんです。句を読むことを通じて自分の世界が広がっていく感覚を味わい、そこから川柳というものにどんどんハマっていきました。

仲畑流万能川柳

私が影響を受けた有名な人物、その一人が川柳家の時実新子(ときざねしんこ)さんです。川柳を始めて3、4ヶ月経った頃、「川柳の歴史が知りたい」と思い、書店で川柳関係の本を探している時に時実新子さんの句集に出会い衝撃を受けました。全く違うんですね、それまで自分が知っていた川柳とは…。女性の情念を鮮烈に表現した作品の数々に、私はとことん打ちのめされ、そこから自分の句作りが変わって行きました。

私が影響を受けたもう一人の人物は、コピーライターの仲畑貴志(なかはたたかし)さんです。仲畑さんといえば毎日新聞の人気川柳コーナー「仲畑流万能川柳」の選者としても知られていますよね。私は2000年からこの万能川柳に投句をし始めるようになったのですが、そのきっかけとなったのは、万能川柳投稿作品の中でも特に名句と呼ばれる一本の句との出会いでした。「孫うたう祖母うたいだす母うたう」。私はこの句の存在を知り、「こういう川柳を年間大賞に選ぶ仲畑さんに私の句を見て欲しい」という思いにかられ、万能川柳への投句を始めたのです。

投句するようになって気づいたのは、「自分が絶対にいい!」と思っていた句はまず載らないということでした(笑)。独りよがりで作っている句ではダメなんだと。人間ってなかなか客観的になれず、「自分の作った句が一番いい」と思ってしまうことがあります。そんな時、どなたかに句を見て批評していただくことによって、気づかされることがたくさんあります。ですから仲畑さんに選ばれて新聞に載った句は「仲畑さんからマルをもらったんだ」、ダメだった場合は素直に「バツを付けられたんだ」と思うようにして、客観的な視点を養っていきました。万能川柳ではそんなことを繰り返しながら、自分の句づくりを進化させています。

句会セブンティーン

2003年からは「句会セブンティーン」の主宰として、北九州市内で句会や川柳教室を開いています。その中で私は句会メンバーの皆さんに、川柳上達の一歩として万能川柳への投句や様々な川柳コンテストへの積極的な参加を呼びかけています。例えばここに万能川柳の入選作品集があるとします。一度も投句していない人がそれを読んだ時の反応は「ああ、うまいなあ」と感心するだけなんですが、投句にチャレンジした人の場合、反応は全く違うものになります。結果はボツであっても、一生懸命考え、作品を作り出す苦しみを味わったからこそ、入選作品と自分の作品の違いがより分かるんです。それが成長への大きな一歩になります。自分の句が選ばれて名前や柳名が活字になった時の喜びは格別で、「また頑張ろう!」という気持ちになります。そんな日々の作句・投句活動を通じてメキメキと力をつけ、万能川柳の常連投句者となった方や各コンテストで入選する方がたくさん出てくるようになりました。ベテラン陣の奮闘もさることながら、特に最近では若い世代の活躍に目覚ましいものがあり、私も大いに刺激を受けています。川柳の上達を目的に老若男女が集い互いに切磋琢磨。川柳には世代を問わず人を惹きつける力があるんですね。これからも句会のメンバーの皆さんと一緒に楽しみながら、川柳上達への階段を上っていきたいですね。

仲間との出会い
新しい自分との出会い

私は川柳を通してたくさんの川柳仲間に出会うことができました。知り合った方達との共通点は「川柳を詠む」ということだけ。他に共通点がないからこそ、会話の内容が常に新鮮でとても楽しいですし、勉強になります。

また、川柳に出会ったことで自分の脳が変わったというか、考え方が変わっていきました。例えば、私は息子や娘をすごく叱った後で後悔することが多々ありました。「なぜあんなに叱ったんだろう」「なぜあんな言い方をしたんだろう」「自分はひどい人間なんだろうか」「母親に向いていないんじゃないか」とか、そこまで考えるんですよ。しかし、それを川柳にしようとした時、客観的な視点に立つことで冷静になることができるんです。自分の脳の中で考えているだけだと、突き詰めてしまって苦しい方向ばかりに行ってしまうことが、川柳にして冷静になって詠むことで、良い気付きを得ることがたくさんありました。川柳には自分をより良い方向に導いてくれる力がある、川柳を詠むことで人生が変わる、私はそう信じています。